統合失調症、苦しみ伝える激情の自画像
館山の愛沢綾子さん遺作展「偏見なくす、娘の願い」
(朝日新聞2009.9.20付)
統合失調症に苦しみ、自ら命を絶った画家志望の若い女性の遺作展が、20日から南房総市のギャラリーで始まる。心の奥底からほとばしる激情のような自画像など約64点。没後初めての個展には「(社会の)偏見をなくしたい」と、生前、自ら病名を明かした女性の思いが込められている。(福島五夫)
「画家になる気です。(中略)いつかずうっと先だけど、私は、個展を開きたい」。
館山市の故愛沢綾子さん(享年24)が小学校の卒業文集に書いた一節だ。幼い頃から描くことが大好きで、姉と地元の会が教室に通った。
03年に地元の高校を卒業して東京の大学へ。しかし、「監視されているように感じて」不安が募り、学業を続けることが困難になった。「統合失調症と診断され、退学して館山市の自宅に戻り、療養に努めたがなかなか回復しなかった。
転機は思いがけない形で訪れた。姉彰子さん(29)の薦めで地域の絵の愛好者たちの展覧会に出品したところ、画朗喫茶の店主の目にとまり、06年3月、初めての個展を開くことに。絵も売れた。綾子さんは将来に希望を抱いた。
昨年4月、館山市で開いた2度目の個展で「私は統合失調症です」と明かした。「偏見にさらされるのでは」と両親は懸念したが、綾子さんの意思は固かった。
「発病の自覚がないことが多い病気であるため、気付かないで苦しんでいる人が身近にいるかもしれません」。
周囲の人たちの理解と協力が大切であることを訴えた。
綾子さんは、自殺願望が強かった。同居する3人の家族は綾子さんを1人にしないように努めたが、昨年7月、自宅で自らの命を絶った。
父伸雄さん(57)は「娘は、直面している苦しみを周囲に理解して欲しいと願っていた。社会への適応が困難な人たちを包み込む人の輪の大切さを作品からくんでもらえたらうれしい」と語る。
会場は南房総市富浦町青木123-1、道の駅とみうら枇杷倶楽部ギャラリー(0470-33-4611)。23日まで、無料。