里山里海活動の価値
台湾での国際フォーラムに参加して
齊藤陽子(樹木医)
(房日寄稿2019.5.18)‥⇒印刷用PDF
4月18日から23日にかけて、台湾で「地景の永続的発展のための国際フォーラムが開催されました。この会議で安房からは、安馬谷里山研究会の横山全宏さんが招かれて発表されました。なぜ国際会議に安房の里山活動なのか、まずはご紹介します。
地景の永続的発展のための国際フォーラムとは
景色や土地の持続可能な開発・発展を議論する場として、ドイツやベトナム、日本から300人ほどの参加がありました。日本からは秋吉台や伊豆など6つのジオパーク(地球や大地の公園)の方々が、ブースを設けて紹介をしていました。
主催は台湾の地理学会、ジオパーク協会、国立公園協会。課題は地景の持続可能な開発、ジオパークや国立公園のあかた、里山の新しい取り組みでした。台湾でこのように関係機関が連携して、多岐にわたる分野のバランスの取れた自然保護と開発が検討されるのは画期的なことのようでした。
安馬谷里山研究会からの発表の経緯
数ある日本の取り組みの中で、地元研究会が招待されたのは台湾国立高夫師範大学地理学系の劉(りゅう)淑惠教授とのご縁からでした。劉教授は2016年5月に開催された第13回里山シンポジウムin南房総に参加され発表され、この地の里山活動にも熟知されています。
里山里海活動の現在的価値
現在の喫緊の課題は、地球温暖化防止のための取り組みです。世界目標は2015年に凍結されたパリ協定の枠組みにおける温室効果ガスの削減です。それには炭酸ガスを吸収する森林の活用が大切です。
また2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(エス・ディー・ジーズ、世界を変えるための17の目標)では、13気候変動に具体的な対策を14海の豊かさを15山の豊かさも——と挙げ、持続可能な世界を実現するため、地球上の誰1一として取り残さない取り組みを誓っています。
この国際的な課題に私たちの足下で取り組んできたのが「研究会」です。同会は平成15年に千葉県里山条例が制定されたことに伴い、南房総市との協働で8月に設立。3・5ヘクタールの雑木林を切り開き、桜や椿などを植樹してきました。この場所は市民の森林セラピーの場所として活用され、里山ハイキング、里山保育などが行われています。代表の横山さんは、里山を案内するときには必ず海の見える所に案内するそうです。整備した山から注ぐ鉄分を含んだ有機物が海のプランクトンを育て、生物多様性を実現していることを実感してもらうためです。
フォーラムで横山さんは「自分は84歳ですが、48歳のつもりで発表します」と笑いをさそって口火を切りました。同会も参加して2018年5月には南房総里海連絡会を組織したとして、大房岬自然の家、「きらり」じょうやまの会、大貫古道の会、高塚山望活クラブ、和田浦くじら食文化研究会、大山千枚田の活動について映像を交えて報告され、世界の参加者と里山里海活動の価値を共有する時間となりました。
外から評価されて、足下の価値に気が付くことがあります。地元の方たちが長年行政と共働してボランティアで取り組んできたこのことに、私たち市民も物心両面で支援することも、SDGsへの取り組みの一環になると考えました。
(樹木医)