里帰りした西洋の名画〜西洋の技学んだ日本の洋画、パリ魅了
(朝日新聞:文化・文芸2017.6.28付)‥⇒印刷用PDF
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モネやルノワールら印象派のコレクションで知られ、世界中から観客が訪れるパリのオランジュリー美術館でいま、ブリヂストン美術館(東京)の所蔵品計76点を並べた企画展が開催されている。「里帰り」となる西洋の名画や、西洋の影響を受けた日本の近代洋画を見ようと、2カ月半で約21万5千人が訪れている。
オランジュリー美術館・ブリヂストン美術館展
オランジュリー美術館の企画展示室(500平方メートル)にルノワールの印象は次代を代表する作品の一つ「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」やセザンヌの「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ルノワール」、世界に2点だけのマネの自画像の1点などが並ぶ。どれもブリヂストン美術館に常設展示されていた作品だ。
「ブリヂストン美術館の名品—石橋財団コレクション展」(8月21日まで)は、同館が入居するビルの建て替えで長期休館中のため実現した。オランジュリーが、海外のコレクションをまとめて紹介するのは珍しいという。
ブリヂストン美術館は、「ブリヂストン」の創業者・石橋正二郎氏(1889〜1976)が集めた西洋画や近代洋画を公開するため1952年に開館。収集活動は続き、財団の所持品は約2600点にのぼる。
オランジュリー美術館のセシル・ジラルドー学芸員は、「傑作が含まれた美術絵画史の概論のようなコレクション。見た人に衝撃を与えると思った」と、質の高さを評価する。
両館の交流は近年特に深まっている。個人の収集品が大きな役割を果たし、長い歴史がある点も同じだ。
観客 日本的な要素に着目
印象派などの名画だけでなく、近代の日本の画家が西洋絵画に影響されて描いた、油絵の「洋画」も、9点展示されている。
最初の空間に飾られているのは、青木繁の代表作「海の幸」(1904年、重要文化財)。漁を終えたのか、巨大な魚を担いで歩く人々が描かれている。画面に残る下書きの線もあいまって、自然の中で生きる人間の生命力を感じさせる。続く部屋には、藤島武二が古代への憧れを込めて描いたという女性像「天平の面影」(1902年、重要文化財)が。樹木の下で古代風の衣装の女性がたたずみ、古い東洋の美人図も思わせる。坂本繁二郎や藤田嗣治らの作品もある。
観客は、西洋絵画との共通点と、違いを楽しんでいた。美術学校の学生フロール・ボナルさん(19)は、「構図の取り方や空気管が独特だと感じる」と、藤島の作品をスケッチ。「海の幸」に見入っていた無職エリック・フルパンさん(65)は、「洋画は初めてで面白い。日本的な要素を探しながら見ています」。
ジラルドー学芸員は作品調査のために来日した際に初めて洋画を見て、これらが描かれた時代背景に興味を引かれたという。「ゴーギャンらが日本の浮世絵に影響された一方で、日本の画家たちはフランスを訪れて西洋画の技法を吸収していた。洋画も展示することで、ふたつの歴史が見せられる。新しい発見のある展示会になった」という。
フランスで近年、日本の近代洋画について積極的に講演活動をしている東京大学の三浦篤教授(西洋近代美術史)は、「近代洋画は西洋絵画の単なる模倣ではなく、西洋などの影響を画家がそしゃくし、独自に生み出した非常にユニークな存在」とする。
三浦教授は、ドイツで開催された、日本にあるフランス絵画と洋画を紹介する展覧会を監修した経験もある。今展のような機会を通じ、古美術やサブカルチャーだけでなく、日本の近代文化へも関心が広まることを期待するという。
(丸山ひかり)