【読者のコーナー】
布良のイタリア楽しんだ展覧会
(房日新聞2019.5.28付)
5月の連休は、寺崎武男の絵画を見たくて、館山市布良の旧富崎小学校で開催された展覧会を見に出掛けました。
寺崎武男の絵画を初めて見たのは南房総市白浜町の下立松原神社で、房州に伝わる神話を描いた壁画でした。それから他の作品を見たいと思いました。
今回の展覧会で、神話画以外の多くの絵に初めて触れる事ができました。戦争画や仏教画、さらに国史絵画もあり、題材は目まぐるしく変わるものを感じましたが、ベネチアを舞台に描いた絵画が多く展示されていました。
今は現代アートの祭典としてよく知られているベネチアビエンナーレに、戦間期に参加して日本人として初めて入賞していたのは驚きでした。そして戦後は、イタリアで学んだフレスコ画、テンペラ画、エッチングとリトグラフの版画を房州の若者たちに伝えていたとは。
さて会場展示作品のなかで一際目を引いたのは、布良?神社に鳥居型の額装で奉納されている絵画でした。
天富命が布良に上陸したシーンを描いた絵で、フレスコ画のような絵具層の剥落が見られました。
工業生産されたチューブ入りの絵具を使わないで、顔料と展色剤を自ら混ぜ、支持体、基底剤は自家製を使用しているのが確認できました。
描かれた当時は新しい画材の研究が進んでいなかったため、イタリアと風土が異なる日本で、ルネサンス期の古典技法の中から材料と技法を選択して、独自の表現を試みていたのでしょう。
剥落からかろうじて残った画面に描かれた船の大群や潮の躍動感から、眼前に迫り来る印象を受けました。
何が描かれているかではなく、画家に描かせた衝動はどこからきているのかを知りたくなりました。
心の中には天正遣欧少年使節も訪れたベネチアのきらめく陽光や水面への映り込みがあったのかもしれないと思いました。
今後、寺崎武男が日本美術史で重要な画家として注目されていくのが、非常に楽しみです。
(館山市 吉良康矢)