「虹のかけ橋〜ウミホタルとアワビがむすぶ日米交流」開催にあたり②
船田正廣=合唱組曲『ウミホタル』初演実行委員長
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ウミホタルは小さい、その子どもたちはもっと小さい、しかし、3億年も光り続けてきたという。館山の生きた化石、生きた文化財と言える。ウミホタルが光る色は精いっぱいで美しい、だが、なんとも名状しがたい。作詞家の大門高子さんは、それを「コスモブルー」と言いきった。世界中の色名帳にも無いと思うが、みごとである。
● 合唱組曲『ウミホタル』誕生
そのウミホタルが、戦時中、子どもたちによって採取されていたということを、私は知らなかった。地域史の研究をしている愛沢伸雄さんが、旧制安房中学の日誌のなかで「海蛍採集」という記載を見つけたことから調査をすすめ、その事実を明らかにしてきたという。この10数年、館山にある戦争遺跡の調査をコツコツと続け、「館山海軍航空隊赤山地下壕」の一般公開と史跡化を実らせた立役者である愛沢さんから、昨年秋の市民音楽祭の会場で声をかけられた。
「船田先生、ウミホタルの合唱組曲が出来たんです。館山で初演をやりたいんですが、力を貸してもらえませんか」と言う。
聞けば、NPO法人南房総文化財・戦跡保存活用フォーラムの戦跡ツアーに参加し、ウミホタルに感動した音楽家によって、2年がかりで誕生した歌だという。そのとき、情熱的に語る愛沢さんから、1冊の楽譜を手渡された。
作曲は藤村記一郎さん、有名なミュージカル『ぞうれっしゃがやってきた』の作曲家だ。表紙をめくると、序章『夕日の海』に始まり、第1章『ウミホタルの光』、第2章『戦争へのシナリオ』、第3章『子供たちの小さな戦争』、第4章『戦場のウミホタル』、第5章『宇宙(そら)の子守唄』、第6章『光の海』、そして番外編『レッツゴー沖ノ島』…と続く。家に帰って、素人ながらひと通りハミングしてみる。うん、なかなかいい感じだ。
● 初演に向けて
最後に記されている作曲者のメッセージを読んだとき、心が動いた。静かな入江の砂浜の海、とりわけ館山に多く棲息するウミホタルの放つ光を実際に体験した音楽家から生まれたこの名曲は、館山で初演するのが最も相応しいと強く感じた。微力の我が身をかえりみず、初演実行委員長という大役をお引き受けしていた。
初演日は2005年9月3日と決まった。合唱指導者の本橋朋子さんと一緒に、音楽関係者へ賛同を呼びかけて回った。願いが届いたかのように、まず9名の音楽指導者を含む23名の市民が名乗りを上げてくださった。次には、館山音楽鑑賞協会の本多かおる先生が副実行委員長として、若輩の私を支えてくださった。その後、さらに合唱団員を募集したところ、4月の初練習には約80名(内、子どもたちが26名)も集まった。
月に2回の練習のたびに知らない顔が増え、現在108名になっている。「合唱は初めて」という人も少なくない。普段着の気分で参加できる合唱団、市民が主役の手づくり合唱団、これが合唱団『ウミホタル』の魅力かもしれない。
● 響け、ウミホタルの心
いよいよ初演本番までカウントダウンが始まった。これまでにもはるばる名古屋から練習指導に来てくださった藤村先生が、当日の指揮をとってくださるという。なんと光栄なことだろう。全国に先駆けた『ウミホタル』の初演には、鴨川混声合唱団、合唱団プリマベーラ、千葉愛合唱団、紫金草合唱団なども駆けつけて、友情出演してくださることになっている。総勢181名の大所帯だ。
初演は、9月3日(土)13時半より南総文化ホールで行なわれる「虹のかけ橋〜ウミホタルとアワビがむすんだ日米交流」の第1部として上演する。アメリカからこの日のためにおいでになる42名の皆さんは、『レッツゴー沖ノ島』を日本語で練習してきて、一緒に歌いたいと言っている。まさに、太平洋にかかる「虹のかけ橋」である。入場無料なので、ぜひ、多くの皆さんにご来場いただきたい。