「いま」あるものを活かした地域づくりを〜NPO活動と地域振興●
愛沢伸雄 ≪房日新聞掲載 2004年8月9日≫
南房総・安房にある海や花などの自然環境、風土に根づく歴史的な文化遺産など、「いま」あるものを活かした地域づくりができないだろうか。私は地域の豊かさを見直し、自然や文化遺産を活用することで、人々がなごみ、こころ豊かで平和な地域社会の創造を願ってきた。安房に生きる市民の一人として、地域文化の再生と活用をめざして努力している市民の皆さんとともに、今年初め特定非営利活動法人(以下NPO法人)「南房総文化財・戦跡保存活用フォーラム」を設立し、5月にNPO法人の認証を得た。
【1. 市民の文化活動からNPO活動へ】
これまで私は「戦後50年」を節目に平和の集いや戦争遺跡の調査・保存に取り組むとともに、里見氏「稲村城跡」保存運動のなかで、里見氏の文化財を活かす文化活動を続けてきた。また、大巌院のハングルを刻む「四面石塔」調査研究を通じて、日韓交流事業をすすめたり、安房南高校では「かにた婦人の村」の支援を受けて、アフリカ・ウガンダ支援活動などの国際交流に関わってきた。
それら学校や地域を結ぶ文化活動では、市民の皆さんのご支援をいただき、そのことが地域づくりの契機となって、今日のNPO法人設立に繋がっていった。現在、約100名の会員によって、戦争遺跡や文化財のガイド事業をおこなっているが、花があり食べ物も美味いし、古代から現代まで歴史・文化遺産が豊かな安房をアピールしながら、この地を訪れる人々や子どもたちが、楽しく実りある学習や研修になるように支援活動すすめている。
【2. 安房の先人から学ぶ】
安房は、太平洋に突き出た房総半島南端であり、東京湾の入り口として、海上交易や軍事戦略上で極めて重要な地域であった。ただ忘れてならないのは、安房の地が100〜200年のサイクルで大きな戦乱や戦争、なかでも大地震や津波、定期的な台風や豪雨などの災害に襲われていた地域であったということである。
この地の人々は、先人たちの知恵に学びながら、地域コミュニティのなかで励まし合い助け合って、その困難な状況を乗り越えていった。戦乱に巻き込まれたり、大災害の地であったことは、平和や助け合いの心を育み、人々の交流の地となり、漁民や商人たちの寄留や交易の地になり、漂着してきた太平洋世界の人々にとって平安の地となっていった。「交流・平和・コミュニティ」の理念は、数々の神社・仏閣の創建や再建となり、地域コミュニティーや教育の場を生みだし、人々の思いや願いは、祭りや民俗伝承という形をとって受け継がれてきたのである。
【3. NPO活動の将来展望】
私は安房を「交流・平和・コミュニティ」の理念をもった歴史・文化に彩られた地域イメージを示すことで、地域を通じて学んでいく生涯学習の地、つまり「教育と研修」の地にしてはどうかと考えている。
近く実現するであろう館山道全線開通時を念頭に、関係行政機関や地域の商工観光団体とともに協働しながら、これまでの戦争遺跡や里見氏などに関わるイベントやガイド活動の実績を踏まえて、子どもたちの総合学習や平和学習旅行を中心に、各種団体の平和研修ツアーなど、将来的には年間一〇万人を迎えたいと構想している。そのなかで次代を担っていく地域の若者たちをはじめ、地域に生きる人々へ新しい雇用の場をつくり、コミュニティ・ビジネスの面からも地域経済の活性化に貢献したいと思っている。
NPO活動を通じての地域づくりは、二一世紀における新しい市民参加型の試みである。私たちが求める地域文化の再生や平和創造の地域づくりに、先人たちが育んできた地域への願いを受け継ぎ、これまで地域づくりを担ってきた行政機関の皆さんのご支援やアドバイスをいただきながら、官民一体となって「地域づくり」に関わっていきたいと思っている。