「里見氏稲村城跡」問題と市民による文化財保存運動
愛沢 伸雄 (里見氏稲村城跡保存する会 世話人代表)
1996年、年滝沢馬琴の小説『南総里見八犬伝』の舞台のひとつであり、南房総・安房のシンボル的な文化遺産ともいえる里見氏の稲村城跡が、自治体当局の手で破壊される直前の事態になった。保守的な政治風土のもと市民運動など育たないといわれた地域ではあったが、文化財保存に全くの素人の市民や教師たちが立ち上がった。
そして、なかでも千葉城郭研究会からは積極的で創意工夫ある支援や協力を全面的に受けたことで、真っ正面から保存運動に取り組むことができた。そして、千葉城郭研究会からの呼びかけもあり、全国の中世史研究者や東国史研究者、そして文化財保存関係者の支援や協力の輪が広がり、早急に稲村城跡の破壊をストップさせる大きなうねりの保存運動になっていった。
1996年4月14日、150余名の参加で第1回「房総里見氏と稲村城跡をみつめる」(以下「集い」)が開催され、終了後に50余名によって里見氏稲村城跡を保存する会(以下「保存する会」)が結成された。6月9日の第1回総会では(1)稲村城跡を史跡にする(2)城跡の保存をさまたげる道路建設等は認めない(3)史跡保存まで会を運営する、という三項目の方針が決められた。以後、今日まで13年、さまざまな経緯のなかで150名を超える「保存する会」会員を中心に、稲村城跡の保存運動が継続してきたのである。
保存運動が始まって今日まで13年が経過した。この間、地域の行政機関や文化関係団体、NPOなどと幅広く協力関係をつくり、歴史的風土と文化財を活かした『地域づくり』を通じて、里見氏城郭群の国指定史跡化の方向性をさぐってきた。2005年、関係者の努力によって市道8042号線問題も解決され、最終的な道路建設が検討されている。
そして目標である稲村城跡の史跡化については、地権者や地元の理解を得ながら、行政によって「国指定」に向けての調査検討がすすめられることとなった。2006年末、天野努氏や滝川恒昭氏らとともに、本会の代表愛沢伸雄が館山市より「館山市稲村城跡調査検討委員会」の委員に委嘱され、2008年3月には2年間の調査研究がまとめられ『調査報告書』が出されたのである。この『調査報告書』をベースに館山市においては、さらに2年間、「国指定」に向けての調査事業をすすめていくとのことである。この7月には館山市当局が地元・地権者の説明会を開催している。
なお、地域において里見氏の歴史・文化を活用したまちづくり事業に展開させていくためには、引き続き、協働・協力の関係団体であるNPO法人安房文化遺産フォ-ラム(代表 愛沢伸雄)と密接な連携を図り、行政関係とともに市民による「地域づくり」や「地域の活性化」を視野にして、里見氏の歴史・文化活動を浸透させていきたい。
【参考論文】