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戦跡からみる安房の20世紀H

本土決戦下の安房


【安房の本土決戦の爪痕】

館山市大賀には、「洲ノ空」の兵士たちが掘ったといわれる「作戦室」「戦闘指揮所」の額が架かった地下壕跡がある。また、三芳村下滝田(現南房総市)には、特攻機「桜花」のカタパルト式発射基地跡がある。どちらも本土決戦に関わり、全国的にみても大変貴重な戦跡である。

1944(昭和19)年7月7日、サイパン島で日本軍守備隊が玉砕したことで「絶対国防圏」は崩壊した。大本営は7月20日に本土防衛の沿岸砲台や陣地計画を示し、東京湾要塞には、敵上陸阻止の主要の抵抗陣地帯と火砲施設の建設を命じた。「作戦室」「戦闘指揮所」の額のある地下壕は、1944年12月に完成した本土決戦のための抵抗拠点であった。

また、海軍が全力をあげて開発したのが、有人ロケット特攻機「桜花」43乙型である。1945年5月に海軍横須賀鎮守府は、8月下旬までに房総半島内陸部の12カ所にカタパルト式の発射基地を配備する命令をだしている。


【本土決戦の作戦命令】

1944年12月に本土決戦の作戦が決定され、翌年1月に作戦計画が示された。

「敵の本土侵攻にあたっては、努めて洋上ないしは水際における撃滅を図ることとするが・・・特に地形等を利用して堅固な陣地を構築するはもとより、より縦深的な陣地を構築・・・」の内容で、これに基づき安房に布陣していた東京湾守備兵団は、作戦方針を「水際における撃滅戦を第一義とし・・・水際陣地および永久要塞を基幹として主抵抗拠点を整備強化・・・偽陣地を構築して敵を眩惑・・・敵の上陸が予想される館山湾・平砂浦・千倉湾に特に邀撃態勢を強化する」とした。

また、要塞参謀長の作戦命令では陣地建設に蛸壷(一人用に掘った戦闘用の溝)などを準備したり、森林がない地域の陣地には、全面的に農作物で偽装することを命じている。

房総地区における偽陣地の建設は、スパイ防止に配慮し、勤労動員の住民らには真陣地と思わせて作業させることを強調し、太平洋側地域を中心にいくつもの偽陣地が住民や学生などを動員して建設された。


【明日のない兵士たち】

館山市広瀬の鈴木俊雄氏は、19才のとき本土決戦が叫ばれるなかで召集令状が来た。佐倉連隊に入隊しすぐに歩兵333連隊の一員となり、米軍上陸が予想される平砂浦海岸の配置についたのが七月であった。そこで厳しい訓練に明け暮れるが、艦砲射撃や艦載機の空襲のなかで本土決戦が間近いことを感じとった。

7月31日の夜、突然部隊の集合がかかり中隊長から「諸君、敵の輸送船団が200数十隻東京湾に向かって進行しつつあり、我が中隊は海岸の水際において敵アメリカを撃滅すべし。諸君の命も今宵かぎり・・・」と訓示があった。鈴木氏は海岸近くの松林を選んで機関銃を据えつけ、松の枝を折って偽装し陣地をつくった。分隊伍長の巡検をうけた後、遺書を書くように命じられたという。「私の人生もこれまでか。せめてもう一度親兄弟と会って、うまいものを食ってから死にたいと思った」と証言している。


【本土決戦の切り札特攻機「桜花」】

本土決戦のため安房には、三浦半島南部や伊豆半島、伊豆諸島の海岸部にある海軍特攻基地と連携する、水上特攻艇「震洋」や水中特攻艇の「蛟竜」・「海竜」・「回天」などの突撃部隊が配備された。しかし、それだけでは米軍に打撃を加えることは不可能と判断され、沖縄戦で使用された特攻機「桜花」を改造し配備することになった。

従来型は航空機で敵艦隊近くまで運ばれ、ロケット噴射で滑空して敵艦艇に体当たりするタイプであったが、本土決戦の切り札として改造された有人ロケット特攻機「桜花」43乙型は、陸上基地から敵艦艇に体当たりするため、ターボジェットエンジンとロケット推進を併用したタイプに改良した最高速特攻機であった。

短い滑走路で打ち出すために、火薬ロケットによるカタパルト式射出方法が開発された。当時世界初の最新鋭の高速カタパルトであった。ひとつの基地には3から5基のカタパルト射出機が設置され、「桜花」50機程度が配備される予定になっていた。

基地建設では、教育部隊の練習生や予科練、あるいは住民が貧弱な道具で昼夜の突貫工事を強いられた。房総南部の拠点であった三芳村下滝田(現南房総市)の「桜花」基地では朝鮮人の建設労働者がいたとの証言もある。

八月に入り基地の完成が間近になり、一回きりの操縦になる特攻隊員たちは、比叡山の訓練場で猛訓練を終え「館空」基地に待機していたともいう。

もし日本の降伏が2、3週間延びて、特攻機「桜花」が米艦隊に突入していれば、沖縄戦と同様に安房地域も、米艦隊からの艦砲射撃の嵐が吹き荒れたかもしれない。

09年3月12日 6,895

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