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戦跡から二〇世紀の安房をみる

C海軍の心臓部「館砲」


【全国から「鬼の館砲」へ】

一九四一年六月に、海軍の陸上砲術・陸上戦闘の実地訓練を目的として、日本で唯一の館山海軍砲術学校(通称「館砲」)が開校された。同時に太平洋を望む広大な海岸砂丘地に、平砂浦演習場が併設された。

「館砲」では、陸上戦闘のために特別陸戦隊の士官や専門家養成を目的にし、とくに大学卒の予備士官を指揮官にした米軍海兵隊を模して、のちに予備学生の士官育成に力をいれることになる。訓練生は大学・高専卒のほか、普通科練習生・高等科練習生・講習員とさまざまにあった。

常時一万五千人がいた訓練生たちは、日夜にわかたぬ厳しい訓練で絞られたので「鬼の館砲」と呼んでいた。卒業後は北のアリューシャンの島々から、南のジャワやニューギニア島と太平洋の島々の戦場に送り込まれていった。

敗戦直前に軍の書類はいっさい焼却され、ここで訓練を受けた将兵の記録は消されたのであった。


【予備学生の「館砲」入隊】

四三(昭和十八)年十月に「大学の学部・予科・高等学校高等科・専門学校卒業か見込み・二十八才未満の者」は予備学生として採用され、「館砲」・横須賀第二海兵団・海軍兵学校・土浦航空隊に分かれて入隊し、一年間は艦船部隊か学校で基礎訓練を行い、その後に専修別訓練を受けた。

なお「館砲」入校の予備学生は、陸戦・対空・化学兵器の三科に分かれて教育を受けた。

その訓練内容をみると陸戦科では、学校前に広がる海岸の演習場で、分隊・小隊・中隊・大隊での攻撃方法や防御訓練を日夜繰り返し、水陸両用戦車隊を使って猛訓練に明け暮れた。戦局の初期には、専ら敵前上陸や橋頭堡確保などを中心とした訓練が実施されたが、戦局の推移とともに対戦車戦闘・夜間挺身奇襲戦闘・噴進確射訓練に移っていった。

対空科では、学校の西側や東側の山頂に構築されていた高角砲砲台を使い、高射射撃指揮と操作訓練に励んだ。卒業前には「館空」から吹き流しを曳いた飛行機を飛ばしてもらい、吹き流しを標的にして対空攻撃の実弾訓練をおこなった。

そして化学兵器科は、実際に毒ガス戦や細菌戦を想定した訓練をおこなった。兵科の性質上、薬学生や歯科学生、理工科系学生が多く配当されていた。

四十三年十月採用の三期予備学生は、翌年五月卒業後サイパンやフィリピン等に赴任し、後の硫黄島では多数の戦死者を出している。

四四年九月に入隊した五期生四千人は、翌年六月に卒業後本土決戦のための特攻要員となっていった。

そして四五年になると「館砲」周辺は、米軍上陸地点と想定され、七月には学校は閉鎖となった。


【海軍唯一の細菌戦訓練】

「館砲」の化学兵器科は、平砂浦演習場で毒ガス戦や細菌戦の実地訓練をする海軍唯一の化学戦専門要員の養成機関であった。

「海軍で細菌戦の訓練をやっていたのは、全国でただひとつ『館砲』だけだった。・・・秘密厳守は徹底的で、同期生、面会の父兄にすら、仕事の断片さえも語ることが許されなかった。・・・海岸線の波打ち際に得体に知れない液体を撒いていった。米兵の上陸してくる前に撒けば、一週間は生きている。その液が口から入れば猛烈な下痢を起こす、と教官達が言った」という(「消えた砲台・少年と館山砲術学校」山口栄彦著)


【特殊任務部隊による米大統領暗殺作戦】

四四年の初めに特殊任務部隊「特攻S特」は、「館砲」を基地として秘密訓練を受けていた。他の兵士よりずっと体格がよく、しかも長髪でいつも薄緑色の戦闘服を着用していた約三五〇名は、山岡少佐が率いていたので「山岡部隊」と呼ばれていた。厳格な条件で採用された陸戦隊員は、英語を話すとともに、米国の地理や交通に詳しく、特別な食事で米国人的な体質になることを求められていた。

また、日頃から夜間の隠密行動をはじめ、どんな苦難や欠乏にも耐えるような厳しい訓練をうけ、とくに大房岬海岸では一〇〇メートル近く直角にそそりたつ断崖を素手で登る訓練がおこなわれていた。

この部隊の目的は、フィリピンやサイパンなど敵の手にわたった地域に逆上陸して、散発的なゲリラ作戦をおこないB29爆撃機を焼き払ったり、また敵の司令部に直接侵入して、一挙に戦局を逆転させることにあった。四四年一二月頃に、特殊潜航艇数隻を使って、米国本土上陸し大統領暗殺や奇襲攻撃をする命令を受けたといわれる。

翌年の六月には、サイパン・グアム・テニアンの敵拠点を急襲奪回する新たな命令を受け、三沢基地へ移動するが、間もなく輸送機の大半が空襲で破壊され決行が延期となり、幻の特殊任務部隊となった。

09年3月12日 6,619

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