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戦跡からみる安房の20世紀

Fウミホタルの軍事利用


【勤労動員作業「海蛍採集」】

アクアラインの駐車場で有名となった「ウミホタル」。その本物の生息地は徐々に減少し、海洋生物研究者の間では、館山湾が世界的に知られていると聞く。

ウミホタルは、ケラチン質の甲殻をもつ楕円形をした三ミリメートルほどの介形虫である。昼間は砂中に眠って、夜になると活発に動く夜行性で、時には青色蛍光色を発光しながら遊泳する。その仕組みは、甲殻質の体細胞中にある発光性物質と、酵素が水分を媒介に反応し発光現象がおきる。

ところで、安房高校史をみると、戦時中の勤労動員作業記録に「海蛍採集」と記載されている。また、元安房水教諭であった尾谷茂氏は軍の研究所よりウミホタル供出を命ぜられ、安房水校の生徒を動員し採集したと証言している。一体何のためにウミホタルを採集したのだろうか。


【ウミホタルの軍事研究】

海に生きる小さな生物ウミホタルは、機密上「あんけら」「ひき」などと呼ばれ、本土決戦のための戦略物資のひとつになった。

戦時中、資源科学研究所の加藤光次郎は論文のなかで「生物の放つ光はほとんど熱を伴わない、いわゆる冷光で、しかも近くは照らすが遠方からは発見されにくく、マッチや煙草の火さえ注意せねばならぬ空襲下の灯火管制のもとに、防空活動に従事し、防空壕に待避する時など、懐中電灯に代わってこの生物光の利用が考えられる。このような目的にそう発光する動植物・・・海蛍はこの意味で最も役にたつ発光動物の一つである」と述べている。

軍部が研究者に命じたのは、まず本土決戦用としてウミホタルを懐中電灯替わりの携帯用照明にできるか、あるいは夜間攻撃用の敵見方標識(暗夜識別)に使用できるかどうかであった。


【特攻に「ウミホタル照明弾」開発】

乾燥したウミホタルを粉末化し、それに水や唾液を付けて発光させた時に、適度な明るさと持続時間が研究開発のカギであった。

携帯用照明では、四、五グラムのウミホタル粉末を一〇〇cc位の水に入れて、三〇〜六〇分間発光させることはできたが、実用化にはもっと長い発光時間が求められた。また、ウミホタル乾燥後の取り扱いでも吸湿しないよう乾燥剤を使うが、完全に容器を密封することができず、不合格品をだすことが多かった。

夜間攻撃用の敵見方標識では、四〇時間の発光が可能となり、乾燥粉末ウミホタルを化学糊と混ぜて紙に塗布し、乾燥させた後に五センチ四方に切断して胸部に張り付ける方法をとった。

ところで、軍部はさらに「ウミホタル照明弾」の開発を命じた。特攻機が夜間、敵艦船に体当たりする時に敵艦周囲の海面上にウミホタル粉末を撒くことで船の輪郭を浮かび上がらせ、目標を確実に捉えることが目的であった。四五年七月頃に実用化したというが、実際使用したかは不明である。


【全国唯一の兵器整備学校】

一九四三年(昭和十八)六月に横須賀海軍航空隊から独立させ、「館空」基地の隣りに開隊したのが、洲ノ埼海軍航空隊(通称「洲ノ空」)である。

この兵器整備練習航空隊と呼ばれる「洲ノ空」は、全国でただひとつの航空機関連機器・機材を整備する技術者養成の学校であった。

海軍は、アメリカの最新の航空兵器に対抗して、兵器の研究開発していたが、問題は開発した機器・機材が実戦に使用できるように改良や整備、操作する技術者が不足していたことであった。そこで実戦経験者を指導教官にして、実戦部隊の優秀な整備関係者や全国の理科系学生生徒を集めて養成することにした。

兵科は普通科と高等科を設置し、それぞれ機器・機材専門分野ごとに射爆兵器班・無線班・写真班・光学班・魚雷班・電探班・雷爆班に分けて教育した。多いときには、一万名以上の若者たちが学んでいたという。


【「洲ノ空」の専門教育】

普通科のたとえば射爆兵器班の専門教程をみると、おもに戦闘機用の七.七ミリや二〇ミリ機銃の分解結合、十三ミリ機銃のカム調整と装填射撃方法、爆弾の構造と模擬爆弾による爆装投下、毒ガス兵器の取り扱いや実験解毒方法、航空写真機・照準器・航法兵器の取扱いと無線モールス信号の操作などを学んでいる。

なかでも戦争末期には毒ガス兵器を扱っていたので、「館砲」化学兵器科とともに、海軍の毒ガス製造部門の相模海軍工廠研究者たちと連携して、研究開発や操作技術に関わったものもといた。と同時に、本土決戦へむけての兵器準備では、とくに特攻機や特攻兵器の保守点検に多くの技術者が必要とされたので、「洲ノ空」は海軍にとって極めて重要な役割を担っていた。

09年3月12日 8,247

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