NPO会員の金床憲(キムサンホン)様より、
書籍「黒い砂」を寄贈いただきました。
済州島出身の海女が四世にわたり、日本で暮らした小説です。
房総半島和田浦も舞台の一つとして度々登場します。
ぜひご一読ください。
「黒い砂」
ク・ソウン著・李恵子訳
定価=2,000円+税
発行=新幹社(?二三)
【書評】
小説『黒い砂』と和田浦
「……母さんが結婚する前、お前のお祖母さんについて房総半島にある和田浦というところで出稼ぎ仕事をしてたことがあるんだ。今はそこに故郷の人が多くいるから、少しのあいだ、そっちへ行こうと思うんだ。何と言ってもそこは東京にも近いし。ここ(三宅島)にいるよりも噂が伝わるのも早いじゃないか、そう思ってね」
三宅島に夫の姉家族とともに来たクオゥルは家族と別れて和田浦へ行く決心をした。夫が徴用で召集され、長崎に居るらしいという消息を聞いてのことだった。ここで母子三人の和田浦での生活が始まった。結局、夫は長崎で被爆死し、遺体すら発見されなかった。夫が帰ってくると信じているクオゥルは、和田浦で帰還を待たねばならない。その間、へグン(娘)も大人になり、キヨン(息子)も大学生になった。キヨンは民族学校で学び、共和国(北朝鮮)への帰国の途につく。そしてヘグンは、キヨンの先生と恋に落ち、子を宿す。だが、その子の父も朝鮮戦争に参戦し戦死する。ヘグンはコニルを産み、松川フクオという聴覚障害者と結婚し、コニルは松川ケンイチという戸籍を得て成長する。南房総のおだやかな風景と温情、だが厳しい海での海女という仕事。のちにこの家族は南房総を離れて三宅島に移住する。
済州島出身の海女たちの日本における生活ネットワークの存在もあるし、南房総における日本人との生活交流もある。戦中、戦後の厳しい時代、簡単なことではなかったにちがいない。朝鮮人も苦しかったし、日本人も同様であった。共に生きてきたのあった。
済州島出身の海女たちの四代にわたる日本における家族史は、大きな歴史的現実に揺り動かされ、波乱万丈の生活史となる。そのような中にあっても民衆の一人ひとりは歴史を受けとめ生きぬいてきた。そのたくましさに目を見張りながらも、その生き方の中に希望を見失わない心を見出すことであろう。済州島出身海女の生活世界を知るためのとても佳い書です。