●安房の地質の特色
三方が海に囲まれた千葉県の地形は、北部が海岸平野や台地、砂浜海岸に対して、南部では海抜400m弱であるものの起伏に富んだ丘陵部であり、房総丘陵の主要部である安房地域では、数十万年間の海面変化や地殻変動によって、多くが岩石海岸になっている。
安房地域は、新生代(6,500万年前〜現在)でも「第三紀」(6,500〜164万年)の「新第三紀」(3,540〜164万年)、その中の「中新世」(2,330〜520万年)以降に深海底で堆積した厚い海成層によって大地が形成されている。これらの海成層は房総沖の相模トラフ周辺にあるフィリピン海プレートの沈み込みにともなって形成された地層群(保田層群・三浦層群・千倉層群・豊房層群)であり、極めて特殊な地層といわれている。海成層は、一般に水深1,000〜3,000mか、それよりも深い海底で堆積した泥岩や砂岩、あるいは泥岩・砂岩が入り交じったもの、さらに火山島群からの飛んできた火山噴出物などの凝灰岩層などで構成されている。このような新第三紀からの若い地質時代の地層が地上で観察される例は、世界的にも極めてまれであるといわれている。
●鋸山と房州石
房総半島南部の凝灰質砂岩ないし粗粒凝灰岩は、房州石と総称されている。その産地によって元名石・金谷石・堤ヶ谷石・本胡麻石などと呼ばれ、とくに鋸山山頂付近の竹岡層の房州石がよく知られている。この竹岡層は、鋸山山頂付近や富津市海良から、君津市黄和田畑や勝浦町鵜原にかけて分布している。船底型の地質構造である向斜構造の軸部といわれる鋸山は、周辺部より粗い凝灰質砂岩からなっている竹岡層の侵食スピードが遅いために取り残されたといわれ、山頂付近で産出される金谷石や元名石は石目が細かく最良品という。房州石は黒色スコリア・白〜灰〜黄〜桃軽石・岩片を多量に含んでいる凝灰岩ないし凝灰質砂岩で、軟弱で風化しやすいものの耐火性があるところに特徴がある。
●沼のサンゴ層と海岸段丘
館山市沼地区の海抜20mのところには、6千年前から1万5千年前に形成されたサンゴ層があり、「沼のサンゴ層」と呼ばれている。現在75種類が確認され、千葉県の天然記念物である。
この地層や化石からみて、縄文時代は海水面が高く、6千年ほど前には谷の奥まで海が広がっていた。その後気温が下がると海水面も3〜4m下がって、現在の標高約25m前後のところに海岸線があったという。ただし、房総半島南部では自然に海岸線が後退しただけでなく、度々の地震によって土地の隆起が繰り返され、現在5つの海岸段丘が形成され、その痕跡をみることができる。
5回の隆起によって形成された海岸段丘面は「沼面」といわれる。まず6150年前に離水したところを「沼Ⅰ面」といい、標高23〜26mのところにある。標高16〜21mには「沼Ⅱ面」があり4350年前の離水による。さらに標高9〜14mの「沼Ⅲ面」は、2850年前の離水であり、標高5〜6mの「沼Ⅳ面」は、1703年の元禄大地震の離水でつくられた。そして、標高1〜2mのところには関東大地震で隆起した段丘面である「大正ベンチ」がある。
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