私たちが住む安房地域の食文化は、どんな姿をしているのかという素朴な疑問から、NPOフォーラムでは有志による「安房・食文化フォーラム」の調査を始めました。まず、身の回りの食材や食習慣を考えながら、いわゆる「長寿社会」をつくってきた安房の伝統料理を見直すことにしました。
そこで、地域の食育に貢献している館山市健康推進協議会の皆さんにご協力いただき、「おらがごっつお(わが家のご馳走)」と題するレシピ集を作成しました。愛情あふれる調理法の数々が集められ、市民とともに料理実習の指導を仰ぎ、誇りある安房の「ごっつお」が再現されました。
煮物ひとつとっても地域あるいは家庭ごとに個性があり、それは母から娘へ、姑から嫁へと継承された「おふくろの味」です。生活圏ごとに適した生活文化の知恵があり、同じメニューであっても家庭ごとに異なる繊細な工夫があり、それが健康な生命を支えてきたのです。
医食同源の考えに基づいた「身土不二」という言葉があります。私たちの生命(身体)と生きる環境(風土)は一体不可分のものであり、生まれ育った食物を摂取することが望ましいという意味です。
明治以降の近代、安房が、健康を病んだ文人墨客や要人がらの転地療養の地として知られていく背景には、安房の人びとが試行錯誤を重ねてきた食文化の知恵があり、「健康長寿」社会をつくってきた伝統的な食文化があったのでしょう。
そう遠くないいつの日か、市民(とくにオカアチャンたち)が主役となって、安房の「ごっつお」を気軽に楽しめるコミュニティ・レストランが開けることを望んでやみません。