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「いまあるもの」を活かした地域づくりをめざして

■設立趣意書

1.設立の趣旨

南房総・安房地域にある海や花などの自然環境、風土に根づく歴史的な文化遺産など、この地域に「いまある」ものを活かした地域づくりができないだろうか。私たちはこの地域を見直し、自然や歴史・文化の保存と再生を願いながら、地域の活性化を図るあり方をさぐってきた。この地域全体を視野に入れて地域がもつ豊かさを見直すとともに、地域にある自然や文化財・文化遺産を活用することで、人々がなごみ心豊かになる地域社会が創造されることを望んでいる。そのような「地域づくり」に関わっていくために、私たちは特定非営利活動法人(以下、NPOと略す)を設立することにした。

ところで千葉県は、2001年よりNPOが日本で最も活動しやすい県をめざして、県政に「NPO立県千葉」の実現を掲げてきた。千葉県の歴史と地域の特性を見据えて、市民の視点に立った、よりよい地域をつくることは多くの県民の願いとなっている。また今日、歴史的な価値を有する文化的な所産を広い意味での文化遺産としてとらえ、保存・活用を図って、次代の人々に伝えていこうという動きが活発になっている。地域に生きる人々がその地域に生きる誇りや喜びを感じる要因のひとつとして、足元にある歴史的環境や景観をあげているという。そのことからも地域の魅力をあらわしている文化財・文化遺産が、地域づくりに果たす役割の重要さを認識し、NPO活動がおこなう社会的貢献は大きいと考えている。

NPO設立にあたっては、地域の文化財を保存・活用する活動していく指針を文化庁文化審議会企画調査会が作成した「文化財の保存・活用の新たな展開」の報告(2001年11月)を参考にした。報告書の「未来へ生かす文化財の保存・活用のあり方」をみると、第一には、民間の役割分担の考え方として「民間、たとえばNPO、NGO等の活動をさらに活発化し、国民一人ひとりの参加を促すことが必要であり、国や地方公共団体としては、これらの活動を促進するための支援的行政を推進する必要がある」とし、「専門的な知識を地域の人々にわかりやすく解説する人材としても、NPO、NGO等で活動する人々の果たす役割は大きい」と指摘している。

第二に「文化財を生かした地域づくり」として、「文化財は、地域の誇りとして地域づくりの中核となるものであり、観光資源として新たな視点から見直したり、伝統産業の復興の好機ともなる。」と述べ、魅力ある地域づくりには文化財が果たす役割をよく認識して、積極的に活用することを促している。それを受けての「総合的な視野に立った文化遺産の保存・活用」では、今日国民意識が大きく変化するなかで、単体である文化財を点的に捉えるだけでなく、その周辺の歴史的環境を考えて面的に把握したり、また人と自然との関わりでつくりだされた文化的所産としての景観なども、広い意味の文化遺産として把握すると述べている。つまり、地域全体を視野に入れた文化遺産の保存・活用が求められているとしている。そのなかで急激な生活様式の変化によって、近代における科学・産業遺産や戦争遺跡なども、早急に保護する重要性をあることを指摘している。いずれも、今までにはない文化遺産への新しい課題を提起しながら、今後文化財保護法ではとられきれない広い範囲の文化遺産に関し、総合的な視野に立った創造的な取り組みを求めている。

そして第三には「NPOやNGO等の民間団体の活動や、国民一人ひとりの取り組みを促しながら、参加型の保存・活用を推進すること」を謳い、「文化遺産に親しむための活動をおこなう団体や、とりわけ子どもに対して文化遺産に関する学習・体験の場を提供する団体など、文化遺産を側面から支える組織を育てること」で参加しやすい環境をつくるとしている。そして、「次世代の文化遺産の保存・活用の担い手となる現在の子どもたちに、文化遺産への理解と愛情をもって成長するよう働きかけていくことが重要」と強調していることに注目している。

私たちが活動する地域である南房総・安房は、太平洋に突き出た房総半島南端の地であり、古代より政治や軍事、交易において極めて戦略的な拠点としての役割を担った歴史的特性をもった地域である。たとえば、その一つといえる戦争遺跡をあげても、この地域を通じて、太平洋戦争に関わる出来事に触れられるだけではなく、日清・日露戦争以降近現代日本の歩みの一端をさぐることができる。地域にある戦争遺跡は、戦争の事実を生き生きと語る実物教材であり、戦争を追体験する場として極めて有効であって、平和教育としてふさわしい素材である。とくに子どもたちの体験学習では効果的な役割を果たしている。

また、南房総・安房地域は、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の舞台の地として紹介され、フィクションの世界が地域を代表する観光資源となっているが、地域には今も里見氏関連の文化財が数多く残っていることを忘れてはならない。このように南房総・安房の歴史・文化を学び、戦争遺跡や里見氏に関わる歴史的風土を保存・活用していくことで、文化財を活かした「地域づくり」になっていくと確信している。

そこで一つめに、地域にある文化遺産を活用して、地域経済を活性化する活動に貢献していきたいと思っている。二つめには、里見氏関連の文化財などを通じて、地域の歴史的な環境を学びながら、地域に生きる市民として文化遺産を後世に伝える文化活動に関わっていきたいと考えている。三つめは、里見氏関連の文化財とともに、地域を見る視野を広げて、海洋に関わる考古・古代遺跡をはじめ、里見氏前史の中世城館跡や近世の陣屋遺跡・海防遺跡、近代の戦争遺跡、産業遺跡など、さまざまな文化遺産の調査研究をすすめながら、房総半島南端にあることでの歴史的文化的特性を学びつつ、南房総・安房の歴史的環境や文化遺産への歴史的認識をより確かなものにしていきたいと思っている。四つめとして、海に囲まれた南房総・安房にある国際交流の痕跡を歴史的な視点からさぐりながら、国際交流の場をつくっていきたいと願っている。とくに東アジアとの交流をみると、地域には歴史的な関わりをもつ文化遺産もあり、東アジア世界の人びととの交流のきっかけにしていきたい。

以上、私たちのNPOは、南房総・安房の文化的歴史的な特性を視野に入れながら、地域の自然や文化遺産を活用していくガイドの活動を中心に、それに関わる事業活動を展開していきたいと思っている。この地域が「花があり、食べ物も美味いし、古代から現代まで歴史・文化遺産が多い」ことをアピールして、地域を訪れる人々の研修や子どもたちの学習が楽しく有意義になるような学習支援を担っていくつもりである。

また、安房の自然や文化遺産を紹介するために、さまざまな媒体を利用し情報発信するとともに、充実した研修や学習の場になるように、安房地域独自の学習プログラムを企画して提供していきたい。そのためには文化財・戦跡ガイド養成の教育システムを工夫したり、訪れた人びとにわかりやすいガイドマップを作成する。さらに将来的にはガイド育成に関して、地域に学ぶ若者たちの雇用の場になるように事業を展開していきたいと思っている。

そこで、① 地域にある戦争遺跡の調査研究・保存・活用のための事業活動 ② 地域にある里見氏関係を中心とする文化財の調査研究・保存・活用のための事業活動 ③ 地域の国際交流の痕跡を調査研究・保存・活用する活動をおこない、「特定非営利活動促進法」のなかの「3.まちづくりの推進を図る活動」「4.学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動」「8.人権の擁護又は平和の推進を図る活動」「11.子どもの健全育成を図る活動」に該当する活動と考えている。


2.設立の経過

NPO設立に至るまでには、この南房総・安房の歴史的特性を深め、文化遺産をまもっていく3つの活動があったことを紹介したい。

はじめに「戦争遺跡」(以下戦跡)に関する活動である。1993年から安房地域の戦跡の調査研究が始まり、機会があるたびに調査研究を公表してきた。1995年、安房地域の市民に呼びかけ「戦後50年・平和の集い」実行委員会を結成し、地域の戦前・戦中の様子や地域の戦跡を調査研究し、延べ約2千余名の参加によって、さまざまな講演会や企画展を開催してきた。

その後も調査研究をすすめながら、貴重な戦跡の保存・史跡化を呼びかけてきた。その間、今日まで全国から約6千名を越える訪問者に対して、安房地域の戦跡をガイドしてきた。また、近年館山地区公民館での郷土史講座を中心に戦跡フィールドワークをおこなってきたが、それをきっかけに調査・研究やガイドの勉強を希望する市民によって、昨年4月「戦跡調査保存サークル」が結成され、現在まで月1回の現地調査や講演会などを実施してきた。

ところで2002年に館山市は財団法人地方自治研究機構の助成によって、館山市戦跡調査委員会をつくり、平和学習の拠点として戦跡を活用する「まちづくり」構想を発表しているが、この委員会事務局に協力し、戦跡資料の提供や戦跡ガイドなどをおこなってきた。

つぎに「里見氏関連の文化財」に関する活動である。1996年に「里見氏稲村城跡を保存する会」が生まれて以来、戦国期里見氏の城郭である稲村城跡を保存し、史跡化のための活動をおこなってきた。そのなかで里見氏の歴史的研究が急速に進展し、その後の安房にある里見氏城郭群全体の国指定史跡化を視野に活動を広げていった。そこで文化財を活用した地域の活性化のために、里見氏関連文化財を活かす文化活動やイベントをさまざまに展開することになった。

それまですすめてきた里見氏の歴史研究のための「シンポジウム」や講演会、イベントとしては規模を拡大し全国の里見氏関係者を集めた「南総発見フォーラム」(後「里見まつり」とタイアップし「里見まつりフォーラム」)や「里見ウォーキング」、地域の文化活動として、里見氏の城跡間を結ぶ歴史の道を歩く「里見の道ウォーキング」や、ミニ講演と寺社・城郭見学をつなげた「里見紀行」など、さまざまに工夫した事業を数多く主催・共催して、延べ1万人近い人々が関わるような取り組みをしてきた。

そして、国際交流の面では、2001年の「日韓交流年」にあわせて、日韓交流をあらわしたと思われる文化財-館山市大網の大厳院にあるハングルを刻む「四面石塔」(県指定)を活用して、「四面石塔の謎」を解明する日韓の歴史研究者共同のシンポジウムを開催したり、小中高の教師、高校生を招請して歴史教育実践のシンポジウムをおこなって、地域の人びとと交流する機会をつくってきた。

以上のように、南房総・安房地域を中心に10年近くにわたって取り組んだ3つの活動は、その成果も目に見えるようになった。2003年12月25日、これらの活動に学びながら、さらに地域の人びとがもつ知恵と思いを広げて、少しでも地域社会に貢献したいと願う市民たちによって、NPO法人設立の準備会が開催された。

私たちは、これまで取り組んできた戦跡や里見氏関連の文化財の保存・史跡化に関わる文化活動、さらに国際交流などの経験を生かして、関係行政機関や地域の歴史・文化関係団体、そして何よりも「地域づくり」という志を同じくする人びとと力を合わせて、地域の歴史・文化、そして平和を学びながら、これまでの国際交流などをさらに発展させて、地域の人々がもっと心豊かになっていくNPO活動の創造を願っている。そして、2004年1月13日、NPO設立総会に至ったのである。


平成16年 1月13日


特定非営利活動法人 南房総文化財・戦跡保存活用フォーラム

設立代表者 愛沢 伸雄


※平成18年6月に法人名称を安房文化遺産フォーラムに改称

07年12月26日 23,388

特定非営利活動法人(NPO) 安房文化遺産フォーラム

旧称:南房総文化財・戦跡保存活用フォーラム(2008年5月に現在の名称に変更)

〒294-0045 千葉県館山市北条1721-1

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