タイトル: | 【沖縄タイムス】170618*戦の記憶つなぐ空間〜戦争遺跡・戦後72年の今① |
掲載日時: | %2017年%06月%18日(%AM) %10時%Jun分 |
アドレス: | http://bunka-isan.awa.jp/News/item.php?iid=1150 |
(沖縄タイムス2017.6.18付)‥⇒印刷用PDF
ひんやりと少し湿り気のある壕内に懐中電灯の明かりがともる。南風原町の沖縄陸軍病院南風原壕群20号。沖縄戦当時、2段ベッドでは身動きの取れない負傷兵が大小便を垂れ流し、うみや汗の混じった悪臭が充満。戦況の悪化で、おにぎりの大きさはピンポン球程度になった。5月25日の撤去時には、情報漏洩を恐れた旧日本軍が青酸カリ入りの牛乳を配り、移動できない兵士を「処置」した現場だ。
壕に入る前は冗談を言っていた小学生も真剣な顔つきに変わった。「手術で手足を切るときに麻酔がないと大変」と話す男児。南風原平和ガイドの会の大城逸子会長(58)は「きれいで清潔なはずの病院が戦時下では暗くて狭くて不衛生だった。実物があるから一瞬で追体験できる。戦争遺跡という本物が持つ力は大きい」と語る。
20号は18日、公開10周年を迎えた。年間約1万人が訪れる戦争遺跡は開壕当時、「何年間、もつのだろうか」と懸念された。安全性の問題で壕内から内部をのぞくだけの見学法が検討されていたほどだ。しかし、一度に10人以内の入場制限、鉄筋を入れて崩落を防ぐ、ウレタンで保護しつつ土の壁を再現する手法などが保存につながっている。
それでも火炎放射器で真っ黒く焼けた壁は少しずつはがれ、杭木の劣化も進む。壕を管理する同町教育委員会は2016年10月、保存と活用法を町文化財保護委員会に諮問。戦争遺跡として利用されている平和学習の拠点だが、さらなる活用策の検討を始めた。
文化財保護委は、活用が20号と博物館「南風原文化センター」という二つの点を結ぶ線にとどまっている—と指摘。学びの場の「点」、点と点を結ぶ「線」、線が重なり合う「面」をつくって学習を深めたいという構想を持つ。
公開中の20号近くにあり、艦砲砲弾が壕口を直撃して死者が出た24号との比較で、場所によって異なる戦争体験を提示する。壕のある黄金(こがね)森には町内生物の4〜5割が生息することから、戦争という視点と併せて幅広く南風原を学べるのでは—との考え方だ。
町がモデルとする千葉県館山市の「安房文化遺産フォーラム」の愛沢伸雄代表(65)は「全体像をつかむことで新たな発見が生まれ、さまざまな事象が結び付く。戦争遺跡も含めて学びの深みが増す」と指摘。平和ガイド活動といった地域住民を巻き込むことも、次の世代に地域文化を伝える継承につながると強調した。
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戦後72年が過ぎて戦争体験者が減る中、「戦争遺跡」に戦場の真実を学ぼうとの動きが広がる。学びの深化を模索する現場もあれば、遺跡自体の劣化による閉鎖、文化財指定後も活用の進まない例もある。現場を訪ねた。
(南部報道部・又吉健次)
沖縄戦の実相を「戦争遺跡」に語ってもらうには、どうすればいいのか。県内外で長年遺跡を調査する吉浜忍・沖縄国際大学教授に聞いた。
(聞き手=南部報道部・又吉健次)
「県民にとって沖縄戦の記憶は忘れてはいけないもの。体験を語ることのできる世代が減ってきているため継承の形を考える必要がある。沖縄戦の記憶を持つモノに触れる、対面することは有効な方法だ。書籍では得られないものを感じることができる。
「県立埋蔵文化財センターは以前の調査で979件としたが、数千件はあるだろう。戦争遺跡をだれが、なぜ造ったのか、戦闘にどう機能したのかを考えることは重要だ」「戦争遺跡を文化財指定することで自治体が管理責任を持ち、整備するときにも原形に近い形で保存できる。安全対策も重要だが、コンクリートで通路を造るなど原形を変えることで当時の状況が分からなくなる懸念もある。その意味でも文化財指定は必要」
「ガマや壕などには地主がおり、見学で事故が起きた場合は責任をとる必要が出てくる。そのため平和学習に活用してもらいたくても、利用できない場所もある。自治体が文化財指定をして、その懸念を拭う必要がある」「(那覇市首里の)32軍司令部壕の内部は崩落して入れない状態だ。活用が可能な場所、必要な場所に限って指定し利用する方法もある。首里城が正の遺産なら司令部壕は負の遺産。両面を知ることで、沖縄の歴史を深く学ぶことができる」
「すべての地域に戦争遺跡はある。市民はそこを訪ね、触れて考える。情報がなかったら調べ、活用の道を探る。ガイドの会をつくり案内する方法もある。戦争遺跡の大切さを考える時期が来ている」
吉浜教授が30年余りかけて調査した成果をまとめた著作「沖縄の戦争遺跡」が21日、発売される。約150件と厳選した遺跡の歴史、証言といった情報の集大成だという。吉浜教授は「戦争遺跡は自ら語ることはできない。この本を読み現場を訪ねて、沖縄戦について考えてほしい」と話している。約280ページ、2400円(税別)。吉川弘文館発行。