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戦跡から20世紀の安房をみる

③軍事史のなかの「館空」


【航空技術の最前線】

海軍では、30年代に入り従来の飛行艇による海上哨戒や索敵任務だけでは限界として、陸上を基地とした長距離行動が可能な偵察機の試作を始めた。当時、航空本部技術部長は、山本五十六少将であった。

32(昭和7)年10月、各務ヶ原飛行場において、新開発の三菱製発動機を搭載し複葉双発艦上攻撃機を陸上機に改造した、93式陸上攻撃機第一号機の初飛行がおこなわれた。

そして、第2号機から7号機までを「館空」に空輸し、本格的な実験飛行が開始された。機体や発動機などの改良が重ねられ、34年は日本で最初の引込脚方式を採用した双発中翼単葉機実験に成功した。

35年2月には、96式中型陸上攻撃機(通称「中攻」)と名付け、海軍が世界に誇る最新鋭の爆撃機を完成させた。すぐに「館空」では、得猪治郎少佐指揮による「中攻」6機部隊を編成し、本格的な実用訓練に入った。


【「中攻」による渡洋爆撃】

36年9月には、館山・サイパン間の2220kmを途中数時間の悪天候を突いて無着陸飛行に成功し、「中攻」の信頼性を一段と高めた。この年4月には「中攻」専用基地である木更津航空隊が開隊したことで、翌年7月には「館空」から「中攻」部隊が移駐していった。

ところで満州事変以降、航空兵力を拡充強化するため、海軍は次々に軍備補充計画を図り、議会の承認を得ていった。そして、37年7月には蘆溝橋事件を契機として、日中十五戦争が勃発し、3月15日には「館空」で訓練され、その後木更津航空隊所属になった「中攻」部隊が、いわゆる「渡洋爆撃」と呼ばれる作戦を開始し、中国空軍力をたたくため南京や上海周辺の航空基地に空爆をくわえたのであった。

以来、中国の都市に対して無差別の戦略爆撃がはじまり、日中15戦争の拡大と泥沼化に拍車をかけることとなった。太平洋世界を睨む「館空」は、海軍にとって極めて重要な戦略拠点であった。


【「赤山」に地下航空要塞建設】

「館空」基地南側には、通称「赤山」と呼ばれる岩山に大規模な地下壕がある。この山の岩盤は房州石と同質の凝灰岩質ではあるが、地層に石灰質が溶け込みコンクリート状になっている。壕の大部分は素堀りで崩落はなく、当時のままの保存状態で、戦跡としては極めて良好といえる。

この大規模な地下壕についての記録は全くなく、すべて不明のまま今日に至っている。「館空」関係者や付近に住む方の証言などから推察するしかないが、今のところ30年代後半から地下壕の堀削工事がはじまり、堀り出した岩屑は近くの海岸までトロッコで運ばれ、海岸の埋め立てに使われたという。

開戦時には、すでに地下壕というよりも「地下航空要塞」として使用されていた可能性が高い。つまり、地下壕に航空基地の機能がすべて移転できる規模にあり、内部の形状が司令部・兵舎・病院・発電所・航空機部品格納庫・兵器貯蔵庫・燃料貯蔵庫等々の施設と考えられ、「館空」基地の地下航空要塞と呼ぶに相応しい大変貴重な戦跡といえる。


【開戦直前に海軍落下傘部隊の訓練】

1941年の開戦直前、セレベス島メナドのランゴアン飛行場と、チモール島クーバン飛行場への攻撃を展開した海軍落下傘部隊(横須賀第一特別陸戦隊・横須賀第三特別陸戦隊)が「館空」の飛行機を使用し、降下訓練をおこなっている。

9月20日付で2個部隊1500名の部隊編成が発令され、3ヶ月で急遽落下傘兵の養成が命ぜられ、猛訓練が続けられた。

11月に30数機の「中攻」を使い、数百名の落下傘兵が霞ヶ浦での降下訓練に成功し、開戦直前には「館空」基地から台湾に進出していったのであった。

42年1月、メナドにおいて海軍初の落下傘部隊による奇襲占領作戦が実施され、多大の犠牲をだしながらも、翌日飛行場を制圧した。


【「館空」から特攻機出撃】

開戦後、「館空」基地ではいくつかの航空隊の編成と訓練基地として使用されてきた。なかでも、大村謙次中尉指揮のB29出撃基地への挺身攻撃隊である「第252航空隊」戦闘317飛行隊零戦12機は、この基地で実況を想定した猛訓練をおこなった。

そして44年11月26日には、のち「神風特別攻撃隊第一御盾隊」と呼ばれる特攻隊として「館空」基地から硫黄島に飛び、サイパンのアスリート飛行場に突入している。

09年3月12日 8,013

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